2008年02月24日

学校はただしい

 昨年の11月に某小学校PTAと家庭教育学級に呼ばれて「地域・学校・家庭で豊かな子育てを~子どものむかし・いま・あした」と題して講演をしにいった。会場は生涯学習センターで、PTA会員が51名、地域15名、他校15名の81名というなかなかの盛況であった。評判は結構よかったのではないか、と思っている。まもなく委員の方からメールが来て講演の概要をPTA新聞に載せるので、校正をしてくれとファイルを送ってきた。レイアウトもかわいらしくしてあるものであり、そのまま印刷すれば新聞になってしまうところまで完成されたものだった。文章も僕の話の趣旨を要領よくまとめてあって、実に感心した。それで少しばかり赤を入れて返送し、できあがるのを楽しみにしていた。せこい話であるが、今年の著作物にそっと入れようと考えていたのだ。
 ところがそのまま音沙汰がはなく、僕もいつのまにか忘れていたのだが、先般、そのときの委員の方から連絡があった。なんと僕の講演をまとめた文章はPTA新聞に掲載されなかったのだそうです。どうしてかって?学校側が載せるなと掲載を差し止めたのだそうです。つまり検閲なんだな。検閲については日本国憲法に次のように書いてある。
第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
 2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
 これだ。なんと、学校は日本国憲法を平然と犯して僕と成人教育委員会の表現の自由を侵害したということになる。もうじき変わってしまうからどうでもいいものと考えていたのかと自民党の新憲法草案をみたら「検閲は、してはならない(第21条2)」とあった。憲法が変わっても検閲はいけないことなのだ。しかし、学校では何の疑念も持たずに検閲が行われている。どうしてだろうか。
 昨年通信簿について書いたときに「学校と家庭の連絡を密にして子どもの教育の効果を上げる」ことが目的の一つだったと説明したと思う。学校と家庭との連絡を密にすることは日本の学校にとって重要なことだった。手元に教育学術研究会編纂『小学校事彙』という書物がある。明治37年の刊行で厚さが7㎝ばかりある。その中の「学校と家庭」という章を読んでみるとその当時の学校と家庭の関係がよくわかる。まずは学校と家庭の連絡は絶対に必要だと述べられ、さらに「学校は其の教授の点に於て、家庭よりも多量の事業を為すに反し、独り訓練上に於ては、学校に於ける仕事は、到底家庭に於て与ふる勢力に及ばざるや遙かに遠しと云ふも、決して妄言にあらざるべし」とある。つまり、教科教育は学校が家庭よりも影響力があるが、訓練(人間形成)については学校の影響力は圧倒的に家庭のそれには及ばない、と現状を把握している。だから、「訓練に関して、両者相一致し、相提携し、方針を一にし、方向を共にし、能く児童の特性身分境遇に応じて適切なる訓練を加へざるべからず」(人間形成に関しては学校と家庭の方針を一致させ、子どもの家庭の事情をふまえて適切な訓練をしなくてはいけない)と書いてある。要は学校の人間形成の方針を各家庭に守らせるために連絡が必要なのだということだ。通信簿はそのために始まったものだが、それだけではなくさまざまな方法が使われている。
 たとえば埼玉県の川越高等小学校では、「家庭心得」なる文書の中に学校と家庭の連絡について記述があり、通信簿、父兄会、学校参観、儀式への臨席などをあげ、「学校ノ申付ハ何事ニ限ラズ必ズ践ミ行ハスル様注意サレ」(子どもには学校の言うことを必ず守るようにしつけろ)と学校の絶対的な正当性を強調していた。
 ここに出てくる父兄会というのは懇話会とか懇談会という場合もあり、年に何度か父兄を招集して懇談するものであり、授業参観や学芸会、理化学の実験と抱き合わせにすることが多かった。これは学校の教育のありがたさを無知な父兄に知らしむるものであって、もちろん保護者の評価を求めるものではない。また、「児童保護者の心得」「家庭心得」というものが示され、学校から家庭に対しての指導が行われていたのだ。常に学校は正しいのだということを親によくよくわからせることがねらいだった。
 ということは学校の方針にとって好ましくない考え方は許されるものではなかったし、学校と意見のちがう親なんてあり得なかったのだ。学校が憲法すら無視し、超法規的に検閲をしているのは、そうした学校の絶対的正当性という幻想に未だにすがっていることのあらわれなのだろう。学校と意見のちがう親なんて今でも認めたくないのだ。
 

posted by 河東真也 at 15:29| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 学校の文化史 | 更新情報をチェックする
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